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マンガとコスメと甘い物が好き
by yukino-mori
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羽についての一考察 その5-1

突然ですが、ポルノさんにハマる少し前、スキマスイッチの「グレイテスト・ヒッツ」を衝動借りしました。
ベスト版だけあって、聴いたことがあるような曲がいっぱいでした。

一人称「僕」の詩が多く、アラン並にケツの青い曲が満載です。(悪いということではありませんよ。)
紅白で歌った「奏」、有名な「全力少年」はもちろんいいのですが、一番のお気には「ガラナ」です。コレ聴くとテンション上がります。何かの映画の主題歌だったような。
あと、「ボクノート」もいいですよ。これは映画「ドラえもん」の主題歌でした。

5話目です。ちょっと長いので(たいした内容じゃないのですが…)二つに分けました。
毎度ながら、辻褄の合わない所には目をつぶって下さると幸いです。




・・・・・・

「おつかれさん」
俺は、着地してこっちに歩いてきた彼女に、近くのコンビニで買ってきたアイスを手渡した。
「ありがとう」
受け取った彼女は、機嫌良く近くのベンチに腰を下ろすと、小気味いい音を立ててパッケージを破り、好物であるピンク色のアイスバーにかじりついた。俺も隣に座り、自分の分を開ける。
放課後、学校の裏手にある山の上に作られた公園。地上の公園より少し空に近いそこは、彼女のお気に入りだった。
飛べるようになった彼女だが、街中で飛ぶことは滅多にない。理由は、街中の空には色々と邪魔になる物があるからということだ。
飛ぶ時は巨大な鳥さながらの彼女は、かなりのスペースがないと羽ばたくことが出来ず、起こる風もかなりなものだ。空に上がったら上がったで、地下に埋設されていない電線がまだまだ張り巡らされており、引っかからないように通り抜けるのは注意が必要だ。
また、住宅地を飛べば、二階より上に居る人がびっくりするだろう。覗く気などないのに、言いがかりをつけられてはたまらない。

それでこうして、天気のいい放課後時間があると、裏山に来て思いっきり飛び回る。
俺も委員会のない時は何となく付いて来て、こうしてぼけっと眺めているのが恒例になった。
それは実にいい眺めだ。彼女は一応スパッツを履いてはいるものの、ひらりひらりとスカートがはためくのは何とも危なっかしい。こんな彼女を他の男が眺めるのはとても耐えられないから、見張りという意味もあった。

古来人間は、空を飛ぶ事に憧れた。
それで飛行機やら様々な発明がされたのだが、そんな道具を一切使わずに自力で飛行できるのは彼女とラムちゃんくらいだろう。
青空を自由自在に飛び回る彼女(三半規管はどうなってるんだろう…)を見ていると、正直うらやましいと思うこともあるが、代わりに彼女が失った物、不便になったモロモロを考えるとやっぱり「普通が一番」だと思う。
大体、放課後が暇になったのだって、彼女がクラブを辞めざるを得なくなったからだ。
幼い頃から続けてきた柔道。今の体ではまず無理だ。羽が骨折したりもしもの事があっては大変だし、大体公式戦に出られない。
細々と続けるという道もあり、実際かなり引き止められたのだが、彼女はきっぱり辞めるという道を選んだ。それはもう鮮やかに。
「これ以上続けたら柔道体型になってしまうから、ちょうどよかった」なんて冗談めかして笑ったが、瞳は寂しそうだった。そんな潔さも、俺が彼女に惹かれる理由のひとつなのだけど。
そしてそんな彼女が時折見せる、焦がれるような視線の先を認識するたびに、俺の胸はちくりと痛みを覚える。

「ほら」
「!?」
不意に突っつかれて目を向けると、悪戯っぽい目をした彼女が、うっすらとアイスのピンク色に染まった舌をぺろりと出していた。
何という事はない、でもとんでもなくエロティックな仕草にドキリとする。
「…おまえなあ」
アイスのせいではなく、俺は頭痛を感じてこめかみを抑えた。
その無防備さは何だ!これが他の男でも同じことをするのか?
…それとも俺にだけなのか?

急に体の奥から押さえきれない愛しさが込み上げてきて、俺は手を伸ばして彼女の頭を引き寄せた。
自分でも何をするつもりなのかよく分からないまま、舌を伸ばして彼女の舌に触れた。それは甘く、冷たくて、柔らかだった。

「!」
彼女の体が一瞬硬くなる。羽がピクッと震えるのがわかった。
張り倒される――と思ったが、意外にも彼女は動かない。俺は調子に乗って、今度は肩を抱き寄せた。彼女は少し体をよじり、
「アイスが溶けるだろ…」
と小さな声で言った。困惑の色を含んでいたが、怒ってはいないようだ。
「ごめん」
もうどうしようもなく可愛くて、どうしても我慢できない。マジで殺されてもいい。
「あ…こら、ユ…」
ぐっと両手で彼女を抱き取る。夢にまで見た瞬間。何度シミュレートしたことか。頬を寄せ、再び唇を合わせようとした時。
突然俺の腕の中の彼女が掻き消えた。まるで誰かにひったくられたように。
「!?」
腕が虚しく空を抱き、バランスを崩しそうになってベンチに手をつく。彼女の姿はどこにもない。
俺はしばし呆然とした。そんなばかな。

夢だったのだろうか?いやそんなはずはない。俺の腕の中に確かにまだ残っている、柔らかな感触、ぬくもり。
きょろきょろと彼女を探してあちこち見回す滑稽な俺を、ベンチにちょこんと止まった小鳥が、真ん丸い黒い目で見つめているのにふと気がついた。
こんな所に小鳥?
鳥の種類には詳しくないが、真っ白なそれは文鳥か?とにかく、この辺にいる野鳥ではなさそうだった。
小鳥は逃げない。俺を真っ直ぐに見つめる目。彼女の羽と同じ白い体。溶けかけのアイスの半分がベンチに落ちていた。
まさか…
「…ナオ…?」
小鳥は何も言わない。俺たちはじっと見つめあった。
不意に、小鳥は羽を震わせ、パッと飛び立った。
「あっ…!」
手を伸ばしたが、間に合わない。小鳥はあっという間に木立の隙間を抜け、空に見えなくなった。その鮮やかさは彼女の潔さそのもの。
「待って、どこ行くんだ、ナオ!」
俺は空に手を伸ばして叫んだ。あれはナオに違いない、確信できる。

ナオ、戻ってきてくれ。無理やりキスした事を怒ったのならあやまる。おまえの姿を見て驚いたことに傷ついたのなら許して欲しい。
おまえがどんな姿でもかまわない。鳥になったのなら、俺が一生大事に飼ってやる。
鳥かごが嫌なら入らなくていい。望みは何でも叶えてやる。他の女と結婚もしない。一生人間の女とできなくても我慢する。だからだからだから。

俺を置いて行かないでくれ。
by yukino-mori | 2008-06-18 15:09 | ちょこっと話
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