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羽についての一考察 番外
お久しぶりです、また少し書いてみました。
雑木の合間から垣間見た光景に目を奪われた。 そこには天使と… ・・・・・ 小春日和の昼下がり。パンと牛乳を腹に詰め込み、さて屋上で昼寝でもするかと腰を浮かせた時、先生に呼び止められた。 …何でこの俺が、奴を呼びにいかなきゃならねえんだ。 確かにあいつのいる所は予測がつく。特にこんな天気の日には。 そしてあいつの傍には十中八九あの女がいる。気が進まないことこの上ない。 うららかな日差しを浴びながら、渡り廊下を渡ってのろのろと俺は現場に向かった。 あいつのことは嫌いじゃない。親友とまではいかないが、まあそれに近いもんだろうとは思う。くだけているのにいいかげんな感じはせず、価値観も合うのか、一緒にいて気を使わない奴だ。 しかし、奴には最大にして致命的な欠点がある。 それは、あの女をずっと想い続けているという事だ。 あの女。 中学までずっと柔道の神童として通ってきた俺を、あっさりと負かしやがった。 女だと思って手加減したつもりはない。なのに。 部長の座なんか正直どうでもよかった。とにかくリベンジしてやる、俺はその一心で練習してきたのに、あの女は突然、羽なんて訳の分からんものを生やして、あっさり引退しやがった。 勝ち逃げされたことも許せないが、俺にとって大事な物をあの女は簡単に捨てたんだ。 そんなやつに、あいつ…ユウは夢中になっている。 ユウもおかしなやつだ。人当たり良く、容姿はまあ十人並み。子犬のような丸い目は女に好かれるのか、あいつは実際結構もてる。その気になれば女なんていくらでも選べるのに、あいつの選んだ女はただ一人。 俺ならあんな高慢ちきなオトコオンナ、絶対にごめんだ。 古臭いかもしれないが、もっと小さくて可愛くて、男を立ててくれるような女がいい。 ・・・・・・ …あの日のあの女はいつもと違っていた。 結婚式の日、空から降りてきたあいつ。 純白の羽を広げ、ひらひらした物を着て、どことなく女らしい表情なんてしやがって。 …綺麗だ、なんて思ってしまった。 あいつは他人に涙を見せない女だ。でもきっと本当は… ・・・・・・ 雑木に仕切られ、ちょうど周りから死角になったそこは、心地いい陽だまりになっている。 案の定、今日も奴らはそこにいた。 声を掛けようとして…俺はつい、その光景に目を奪われてしまった。 うつぶせで腕を枕に、体を伸ばして横たわる女。羽を広げて、一杯に陽を受けている。 隣に座ったユウは、愛しげにそれを撫でていた。時々軽く掴むようにして撫で切り、手のひらを広げると、抜けた羽毛がふわりと宙に舞った。二人の周りにはもはやたくさんの羽毛が散らばっている。 あいつの表情が、ここからよく見える。 ゆったりと…目を閉じて安心しきった、あいつのこんな表情を見るのは初めてだ。 いつも尖って、触れば切れるような目をしているのに。 ユウは、そんな女を蕩けそうな優しい目で見ている。 この女にこんな表情をさせられるのは、多分こいつだけなんだろう。 ふと、ユウの手が羽の付け根にもぐりこんで、ぐっと撫で上げた。 女は痛がるどころか恍惚とした表情で、思わずあっ、と小さく吐息を漏らした。 それはまるで… 「おい、ユウ!」 俺はわざとガサガサと足音を立てて歩くと、大声で呼びかけた。 ユウの手がピタリと止まる。同時に、あの女の表情が一瞬にして冷めた。 …なんだよそれ… 俺はその変わり身の速さに内心ひるみつつ、至極普通に話しかけた。 「お前ら何してんだ」 ユウはいつも通りの表情で、しれっと言った。 「これから冬だろ。彼女、換羽期なんだ。ちゃんと抜くもん抜かないと、次のがまともに生えてこないから具合悪くなるんだと」 そして、散らばった羽毛を見渡して肩をすくめた。 「抜くもん抜かないと」って台詞に何だか淫靡な響きを感じて、体の芯がぞくりとする。 女はむっくり起き上がり、パンパンと服をはたいて冷たく「何の用だ」と言った。 ううっ、やっぱりこの女可愛くない! 「テメーにじゃねえよ。ユウ、石本が呼んでる。今日の委員会の事だとよ」 「サンキュ。職員室か?」 「ああ」 俺は言うべき事を言ってしまうと、くるっと背中を向けてさっさとその場を離れた。 これ以上、こいつらと一緒にいたくなかった。自分でもなぜかわからないが、とにかくむかついた。 「ちくしょう…」 子供のころ、訳があって暗闇を一人で走り抜ける時、幽霊とかひどく怖いものがついて来ているような気がして絶対に振り返らなかった、そんな気持ちをふと思い出した。 もし振り返れば、完膚なきまで打ちのめされる。予感が背中を押して、俺は走るような勢いで渡り廊下を戻った。 ふと、視界に白い物が入った。 見ると、俺の肩に羽毛がひとひらくっついて、ふわふわと揺れている。 俺は立ち止まってそれを摘み取った。顔の前にもってきてじっと眺めるとその向こう側に、さっきのあの女の、天使のようにやすらかで無垢な表情が浮かんできた。 そしてそれが羽を絞り上げられた時の、不思議に「女」を感じさせる表情に変化した時、俺は思わず羽毛を唇に押し当てた。 同時に、あの女が俺を見た瞬間の、さっと冷めた表情が脳裏に浮かんだ。 やっぱりあの表情はユウだけのものなのか?あいつらの中には何者も割り込む余地がないっていうのか? 一瞬、心臓が絞り上げられるように痛んだ。 ―――ばかばかしい……。 俺としたことが、どうかしている。 俺は強く頭を振ると、羽毛を振り捨てて再び大またで歩き出した。
by yukino-mori
| 2008-10-11 19:27
| ちょこっと話3
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