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羽についての一考察 その12-2
新キャラ登場で、「彼」最大の危機(?)であります。
・・・・・・ 「何せこんな所、今まで若い女の子なんて影も形もなかったんだから、最初は殺風景なものだったのよ。今は月に一回とはいえナオちゃんが来てくれるから、やっとこのくらいになったけど」 研究員のチエさんは、涼やかな微笑を浮かべてコーヒーを出してくれた。 アップにまとめた髪、白衣の襟元から覗く細いうなじがそこはかとない色気を醸し出している、色白のなかなかの和風美人だ。 「チエさんだって若いだろ」 ナオはスタイリッシュなカップに入ったコーヒーをすすりながら言った。彼女がこの女性を気に入っているらしいのが、何となく口調でわかる。 「私なんかもうだめ。仕事、仕事で気がついたらこれよ。ナオちゃんみたいにピチピチしてるうちに、こんな素敵な男の子捕まえておけばよかったわ」 チエさんは肩をすくめて見せてから俺に視線を移した。 「彼でしょ?いつも話してくれる…」 えっ。 「別に、いつもじゃないだろっ」 ナオは照れたようにふくれて俺を睨んだ。お、俺が何したっていうんだ。 「可愛い人ですね」 それまで黙っていた男が突然口を開いた。 ごく自然に、愛想よく言ったように聞こえるが、どこか人をばかにしているようでムッとする。大体高校生の男に「可愛い」という形容はないだろう。 「あ、高津先生よ。私と一緒で、ナオちゃんを担当させてもらってます」 「高津です」 仁義一通りというように挨拶をした男はすらりと長身で、全体的に「スマート」なイメージだった。長髪を後ろに無造作に束ねているが不潔感は微塵もなく、彫刻のように整った顔立ちにはそこはかとない甘さが漂う。 「本当に連れて来たんですね」 彼は長い中指で眼鏡のブリッジをつっと上げてナオに向き直った。 俺への態度とは全然違う、彼女に向けられた優しげで丁寧な口調。その中にはなぜか恋人の不実をなじるような響きがあった。 彼女は少し緊張したように身を引いた。この男の事は苦手らしい。少し安心するが、その時はたと思い当たった。 まてよ。こいつもしかして… 彼女はソファーに立てかけてあった箱を持ち上げると、彼に向かって突き出した。 「こんな高い物もらえない。花や食べ物はどうしようもないからもらったけど、これはだめだ」 やっぱり! 俺の刺すような視線を受け流し、彼はそれを受け取るでもなく、ただ手を出して支えると、穏やかな微笑を崩さず言った。 「ほんの気持ちなんですよ、気にしなくて結構です。ただあなたに似合いそうだと思ったものですから…。戸惑われたのなら謝ります」 紳士で優しい口調だが、有無を言わせぬ響きがあった。 「でも私に返されても、私としてはどうしようもないのでどうか受け取ってもらえませんか。羽の邪魔にならないよう手を入れてありますから、返品するわけにもいきませんし」 「何と言われても受け取れない!」 強情に言い張る彼女を少し困ったように見つめる男。 「そうですか…彼の前で、他の男から贈られた物は身に付けられないと?」 「そ、そういうことだ!」 高津は俺をちらっと見やった。 「こう言ってはなんですが、あなたは本気で彼と…?」 「当たり前だろう。私たちは、キ、キスまでしたんだ!」 「ナオ!?」 何言い出すんだおまえ!ほんとに今日はおかしいぞ! 俺は恥ずかしいやら心配だやらで、俺と同じに真っ赤な顔をしているナオを見つめた。 何となく話の筋は見えてきた。 彼女は高津に付き合うよう迫られているらしい。彼女は心身ともに強いが、こと恋愛に関しては初心でオクテな所がある。この男の事だ、そんな彼女を上手に誘導し、自分の思うとおりにしようとしているに違いない。 彼女は俺を好きでいてくれるものの(だから「貞操」という言葉が出てきたんだろうし)、次第に激しくなる攻勢に、このままではどうなるかわからないという危険を感じ、俺の存在を出したんだろう。そうでもなければ、彼女は他人にペラペラとのろけ話をするような人間じゃない。 しかし奴はそれを疑い、本当なら連れて来るように、そうしたら諦めるとでも言ったんだろう。それなのにまだ…。確かに彼女に俺は不釣合いに見えるかもしれないが。 黙って聞いていたチエさんがくすくすと笑って言った。 「だからナオちゃんはだめだって言ったでしょう。高津先生、ここは男らしく諦めた方がいいと思いますわよ。お似合いの可愛いカップルじゃありませんか」 「お似合いの…?」 奴は冷ややかに言ってやっと箱を受け取り、壁に立てかけた。 そこにノックの音。チエさんは細めにドアを開け、「今行くわ」と小さく答えた。 「私の方の準備ができたようよ。じゃあ先生、お先に。いきましょ、ナオちゃん」 「うん…」 チエさんが促すと彼女はドアの方に体を向けたが、ふと心配そうに俺を振り返った。 「じゃあまた後で、ナオさん」 それを遮るように奴はにこやかに彼女に微笑みかけた。まるで何事もなかったかのように。 パタンとドアが閉まる。 室内には、俺と奴が残された。 急に室温が下がったような気がして見渡すと、奴はゆっくりとこちらを振り返るところだった。 爬虫類を思わせる冷ややかな瞳が俺を見つめ、舌なめずりの音すら聞こえたような気がした。
by yukino-mori
| 2008-12-02 20:46
| ちょこっと話4
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