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羽についての一考察 その12-5
その12最終話です。
話の展開上、冒頭に女性にとって多少屈辱的な表現が出てきますのでご注意下さい。 ・・・・・・ 彼女をがっちりと押さえ込み、唇を貪る。 柔道の押さえ込みから逃げるのは得意だろうが、ここは平らな畳の上ではない。彼女は必死に足をばたつかせ、羽でベッドを叩いた。 拒否しているのが痛いほど伝わってくるが、とても自分を抑えられない。夢中で服の中に手を潜り込ませ、素肌をまさぐった。 首筋に唇を押し当てると、彼女は俺を剥がそうと抵抗しながら、ようやく自由になった口で必死に小さく叫んだ。 「こら、やめろっ!正気に戻れ!」 「ごめん…」 「謝るくらいなら離せ!ばかっ!」 俺は再び彼女の唇を封じた。これ以上俺を拒絶する言葉を聞きたくなかった。 突然、唇に鋭い痛みが走った。 一瞬ひるむと、その隙に彼女は顔を大きく振って俺の唇から逃れ、叫んだ。 「痛いっ!羽が折れるだろっ!」 ハッとして力を緩める。 彼女はくるりとうつ伏せになり、下敷きになっていた羽を開放した。激しく呼吸しながら手を後ろに回し、付け根の辺りを押さえている。 「ごめん、大丈夫か?」 俺は冷水を浴びたように我に返って急いで羽をさすり、あちこち触って異常がないかどうか調べた。 「ばかっ…」 彼女は目のふちを赤くしながら、その間に素早く乱れた着衣を直した。…良かった、折れている所はなさそうだ。 激情が落ち着いて冷静になると、俺は自分のした事を激しく後悔しはじめた。 こんなつもりじゃなかった。やっとキスまでこぎつけたんだ、ゆっくりと時間をかけて、決して急がず、彼女の意思を尊重しながら二人でお互いを知り合うつもりだった。 ……それなのに。 彼女の心。体。羽。二人の関係。一時の昂りと嫉妬で、その守るべきものをおれ自身の手で壊す所だった。 自分の馬鹿さ加減に嫌気が差す。彼女に噛まれた唇がジンジン痛んで俺を責めた。 ようやく落ち着いた彼女は、乱れた髪を手で梳いて、ゆらりとこっちに向き直った。 しおらしく泣いて終わるような彼女ではない。この俺の行動は、恋人とはいえ彼女の尊厳をまるで無視するものだった。 冗談抜きで殺されるかもしれない。今まで失態を見せた時の「お仕置き」が頭をよぎった。 それでもいい。彼女の手にかかるなら本望だ。でも…もしも。 「別れる」と言われたら。 それだけは耐えられない。生きて彼女が他の男のものになるのを見るくらいなら、彼女自身の手にかけられて死んだ方が百万倍ましだ。 「何がそんなに心配なんだ?」 意外な事に、彼女の口調は静かだった。 えっ、と戸惑う俺を、彼女の澄んだ瞳が覗き込む。 「私はどこにも行かない。あいつとは付き合わない。約束する。それだけじゃ不安か?」 改めて心から感嘆した。かなわないな…彼女はみんな分かっている。 俺はいつになく真摯に対応してくれる事に感謝し、少し微笑んだ。 「不安だなんて…そんなんじゃないよ」 「嘘」 「…」 俺がこんな心配をしている事を彼女が知る必要はない。詮無い事で彼女に余計な恐怖を与えてはいけない。 奴は「いくら彼女の意志が強くてもそれが通らない事もある」と言った。それは情けない事にまだ何の力もない俺にはどうにもしてやれない事なんだろう。だから彼女の意思を無視してでも、彼女を壊しても、俺は「今」、彼女を自分のものにしたかったんだ…多分。 彼女は無言で何か考え込んでいる様子だったが、しばらくしてぽつりと言った。 「じゃあ…いいよ」 さっきまでの会話とまるでつながらない言葉。彼女との会話では、こういう事がたまにある。 「?…何が?」 素で尋ねると、彼女は急にキッと目を吊り上げて怒鳴りつけた。 「馬鹿、分からないのかっ!?」 「え?」 「だから!おまえと、約束の証として…」 あっ。 彼女の言わんとした事を理解した俺は、一気に耳まで真っ赤になったらしい。それを見た彼女が思わず呆気にとられたくらいに。 さっきまでの絶望と正反対の高揚感に襲われる。ドキドキして、頭の中がぐるぐる回った。 嘘だろう…そんな事ってあるんだろうか。彼女が自分から…。 「で、でもさっきは激しく嫌がって…」 「少しびっくりしただけだ。それに乱暴にされるのは好きじゃない」 不貞腐れたように言う彼女の頬も赤い。 ごくり、と唾を飲み込む音が耳の中でやけに大きく響いた。 考えてもいなかったこの事態に、あの、でも、その、と自分の感情をもてあましてあたふたしていると、彼女が痺れを切らしたように言った。 「はっきりしない奴だな、女にここまで言わせて!私の気が変わらないうちに早く決めろ!やるのかやらないのかっ!」 「や、やります!」 思わず背筋をピッと伸ばす。彼女はフン、と鼻を鳴らして顔を逸らした。 こんな時ですら呆れるほど男前な彼女。でも俺は気付いてしまった。彼女の体が小さく震えている事に。 「ナオ…」 「なんだっ」 ほんとは怖いくせに、強がってとんがる彼女。そうやって、彼女はいつでも俺を救ってくれるんだ。 こみ上げる愛しさに息が詰まりそうになる。言葉にしようにもうまい言い方が見つからない。俺にできたのは彼女の手にそっと手を重ねることだけだった。 「好きだよ…大好きだ」 彼女は一瞬いつものように憎まれ口をきこうと口を開きかけたが、思い直したように表情を緩め、ぽつりと小さな声で言った。 「私もだ」 ・・・・・・ 彼女は初めての行為の後、放心したように俺の腕に抱かれていた。 女神のように神々しく、子供のように無垢で、でもとてつもなく艶めいたその表情を、俺は今まで見た中で一番美しいと思った。 この表情だけはきっと、いや絶対に俺しか知らない。この先どんな事が俺たちに起きようと、その事実だけで俺は壊れずにいられる、そんな気がした。 弾んだ呼吸もそのままに、俺は彼女を強く抱きしめて言った。 「大人になったら、結婚しような」 ああ、失敗した。なんだか子供同士の約束みたいだ。 こんな時、もっと他に言うことがあるだろうに。 彼女も同じように思ったのだろう、少し笑った気配がした。 「…考えといてやる」 彼女の変わらない、いたずらっぽい声が俺の耳元で響いた。 ・・・・・・ 「悪い人」 「何の事です?」 「“彼”をわざと挑発したでしょう。目の下が青くなってますよ」 「…」 「あの二人なら、そんなに急がなくてもそのうち自然に、それについての謎を解き明かしてくれたでしょうに」 「…彼に頼らずとも彼女の子供を見る事は可能ですよ、それも比較的簡単に。 検査と称して彼女から卵子を摘出し、人知れずしかるべき ―例えば私の― 精子と受精させ、仮腹に入れて誕生させる、とか」 「先生。それだけは同じ女性として、人間として赦せません。もしおやりになるのなら告発します」 「可能性の話をしたまでですよ、あなたも研究者なら一度は考えたことがあるはずです、彼女の変異が次世代に受け継がれるものかどうか」 「…」 「そんなに怖い顔をしないで。…まあ、そんな事をしなくてもいいように一番穏便な方法を採ったのですが、思わぬ伏兵がいたという訳です。噛みつかれましたよ、彼女はおまえなど絶対に愛さないと」 「まあ…」 「絶対…か。 何故子供は“絶対”という言葉を使いたがるのでしょうね。この世界、絶対なんてものは存在しないのに」 「あら、だって素敵じゃありませんか。女はそういう強い言葉に弱いものですよ」 「…まあいずれにせよ、“彼”は“彼女”を一人でここによこす事は二度とないでしょう。彼がこの次無事にここに来れば、彼女と交わっても男性側に危険はないという証明になる。正直私も命が惜しいですからね、彼が現れてくれて良かったのかもしれません」 「…」 「何か?」 「本気だったんですね。彼女の事」 「…」 「先生には珍しい事態ですこと」 「心外な。私はいつでも本気ですよ」 「はいはい」 「じゃあ、この傷ついた心を慰めるために、今夜あたり食事にでも付き合ってもらえますか?」 「ええ、もちろん。ごちそうしていただけます?」
by yukino-mori
| 2008-12-24 19:38
| ちょこっと話4
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