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マンガとコスメと甘い物が好き
by yukino-mori
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羽についての一考察 その4

羽といえば、ポルノグラフィティの「Go!Steady go!」。
私この曲大好きなのですが、この歌詞にも、「君は羽が欲しいって言うけど、そんな物があったら色々と不便だよ」っていう内容の部分がありますよね。
結構具体的で、なるほどなあと思いました。

4話目です。




・・・・・・

「だめだなあ…」がっくりと草の生えた地面に座り込む。
人気のない夕方の河川敷。私は「飛ぶ」練習をしていた。

翼があると言っても、最初から飛べるわけではないらしい。そりゃそうだ、考えてみれば鳥のヒナだって、あれだけ必死に練習をしてやっと飛べるようになるのだから。
ただ私の場合、誰も飛び方を教えてくれない。それこそ無理な話だ。だから私は一人こうして練習している。

研究所では、羽の形状と体部分のつながりを中心に調べられ、実際に飛べるかどうかはあまり問題にされてなかったようだ。一回、「ためしに飛んでみて」と言われてチャレンジした事があるが、羽は虚しく風を起こすばかりで、体は1センチも浮かなかった。それでもう、「飛行能力なし」と片付けられた。
それが悔しかったのもあるが、こんな立派な羽がついているんだ、どうせならちゃんと飛べるようになりたいじゃないか。
飛べるはずなんだ。さかあがりも自転車乗りも、こんな風にがんばってがんばってできるようになった。飛ぶことだって同じようなものだ。きっと。

幼い日、私はやはりこんな風に一人で自転車に乗る練習をしていた。
いつも付き合わせる同い年の幼馴染は、喘息の発作で母親と病院に行っていた。
なかなか思うようにいかなくて、何回も転んで、悔しくて私は地面に投げ出されたまま嗚咽した。
ふと気配を感じて顔を上げると、そこには近所の高校生の男の子が手を差し出していた。
夕日に赤く染まった彼の手は、とても大きく見えた。
そして今私は、その時の彼と同じ年になって…


土手の上を、犬の散歩をする人が通るのが見えた。
こんな所を他人に見られるのはどうにも気恥ずかしい。実は飛べません、なんてばれるのも癪だ。
さりげなくやり過ごした後、私はもう一度斜面の上に登り、息を整えた。
よし、と気合を入れ、羽を羽ばたかせて、一直線に駆け下りる。
「あっ!」
私はけつまづき、派手に地面に倒れこんだ。
「痛っ…」
しばらく立ち上がれず、そのままうつぶせていると、情けなくなってきた。
鳥のヒナでさえできることが私にはできないのか。この翼は徒に重いだけの代物なのか。

「か~のじょっ。何してんの?」
不意に頭の上から声が降ってくる。
「…散歩。」
私はむっつりと答えて起き上がった。
「そっか」
幼馴染の男は、私の顔を覗き込むようにしゃがんでニコニコしている。男のくせに黒目がちな瞳は子犬みたいだ。彼はつと手を伸ばして、私の髪や服についた草をつまんで取ってくれた。
「…どうしてここがわかったんだ?」
今日彼は委員会で、帰宅は別々だった。
「帰ったらおまえもういなくてさ。暗くなってきたし、ちょっと心配になって。で、赤い糸を手繰ってきたらここにたどり着いた」
「ぬかせ、このストーカー」
「何とでも」
彼は私の隣に回りこんで、腰を下ろした。
「練習してんだ」
「…」
「大変だな」
「おまえには分からない」
八つ当たりだ。でも彼は気分を害するでもなく、私に顔を向けて微笑んだ。
「女の子が一人でこんな寂しいところにいないほうがいいよ。付き合おうか?」
「……」
「ナオ?」
「……」
「お~い、ナオちゃん?」
「もういい、帰る。お腹も空いてきたし」
私は立ち上がって、お尻をはたいた。
「そうだな。俺も腹が減った」
彼も立ち上がると、元気な声で言った。
「久しぶりに“みかづき”でも寄ってくか」
私はう~んと体を伸ばした。夕方の、ひんやりとした空気が肺に流れ込む。
「いいな。私ホワイトソースの大盛り。おまえのおごりね」
「なっ…!何で俺が」
「どうせクーポン持ってるんだろ、おまえマメだもん」
当たったらしく、彼はぐっと詰まって、大盛りは対象外なのに、とかぶつぶつ言っている。私はそんな彼を置き去りにして、斜面を勢い良く駆け上がった。


私が飛べるようになったのは、それから三日後のことだ。
by yukino-mori | 2008-06-15 04:59 | ちょこっと話
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