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羽についての一考察 その7-2
7話目後半です。
・・・・・・ 「やめろ!!」 突然腕が自由になった。 見ると、私の腕を掴んでいた男は五メートルも吹っ飛ばされて地面に倒れていた。 それは初めて聞く声だった。 十年以上の付き合いの中で、私は彼の怒鳴り声を初めて聞いたのだ。 他の男もビクッと手を離したが、相手が十代の若造だと見るやすぐに侮りの表情を浮かべ、「なんだこいつ」と凄んできた。ずいっと彼が私と奴らの間に割って入って、視界が背中でふさがれる。大きな背中だった。 「これ以上この子に触ってみろ」 地を這うような声で彼は言った。 「殺すぞ」 こちらからは彼の表情は見えない。が、よほど鬼気迫っていたのだろう。 おっさん達は真っ青になり、お兄ちゃんの彼女だったのか知らなかった、申し訳ない勘弁してくれなどと口々につぶやきながら逃げていった。 私はしばしあぜんとしていた。振り向いたのはもう、いつもの彼だった。 「大丈夫か?ごめん、一人にするんじゃなかった」 彼は素早く私の全身を見回すと、さっと羽の毛羽立った所を撫でてくれた。「何もされなかったか?」 「…おまえって」 「ん?何?」 「キレる事あるんだな」 彼はがくっと肩を落とした。 そして落ちていたコンビニ袋を拾い上げると、割れたアイスバーを取り出した。 「あ~あ、あいつらのせいだぞ。もったいない」 そう言うとチョコレートの箱だけを投げてよこし、「帰るか」と言った。 私は家の前で降ろしてもらい、一応礼を言った。ついてきてもらった事、助けてもらった事。 彼はちょっとの間別れ難そうにしていたが、振り切るように「じゃ、また明日」と手を上げた。 走り去る彼の背中を見ながら、私は複雑な気持ちだった。 守るのは私の方だったはず。弱っていた時とはいえ、それが今日鮮やかに逆転したのをまざまざと見せ付けられた。 たぶん、ずっと前から私は彼に守られていたのだ。そして私は、心のどこかでそれを知っていた。 その想いは、くやしいけれどとても暖かで優しくて、涙が出そうだった。 瞼に浮かぶのは、幼いころの私と彼。 色白で小柄な彼はいじめられて泣いている。私はいじめっこを追いかけ、取っ組み合いをし、しまいには勝利して意気揚々と彼の所に戻る。そして手をつなぎ、家に帰るのだ。 その関係を手放すのは寂しかった。しがみついていたのは私の方なのかもしれない。 でももう私たちはほんの子供じゃない。少しずつ変わらなければいけないのだろうか。 小さな柔らかい手。気がつくとそれは大きな男の手になり、私を見て笑う顔は今の彼の顔に変わっていた。 さてどうしよう。 この間からのもやもやと訳の分からない気持ちは、ここに来て何がしかの形になった ・・・ ような気がする。 でもすんなり彼の思い通りになるのもしゃくだ。もう少し自分の感情も整理したいし、私はまだ私を手放せない。 とりあえず、家族に気づかれないように家に入ろう。 私はチョコレートの箱の入ったカバンをそっと撫でて二階の窓を見上げ、大事なことに気が付いた。 私今、飛べないんだった。
by yukino-mori
| 2008-07-04 04:53
| ちょこっと話
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