マンガとコスメと甘い物が好き
by yukino-mori
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羽についての一考察 その10-3

暑いですね。
最近寝る時は、凍らせたペットボトルにタオルを巻いたものを脇に抱えています。
アイスノンでも快適だと思います。
クーラーをつけて寝ると、閉め切ってるだけに、タイマーが切れると暑さで目が覚めてしまってだめです。



・・・・・・

草の上に広げられた敷物に上がりこみ、彼女のバッグから次々と取り出される物を、俺は夢を見ているような不思議な気分で眺めていた。
俺の好物の鳥の竜田揚げと、卵焼き、レタス、プチトマトの入ったタッパーに、卵サラダとハムのサンドイッチのタッパー。おにぎりの包みに、りんごと果物ナイフ。水筒に入ってるのはお茶らしい。あと、おしぼりに割り箸、紙の取り皿。
「サンドイッチだからおにぎりはいらないかと思ったけど、やっぱりこういう場にはおにぎりがないとな。それも塩と梅干で…」
追い立てられるようにしゃべりながらお茶を入れてくれる。そんな彼女から目が離せない。
これは本当に、あのナオなのか?

俺は、彼女が料理をしている所を見たことは一回もない。彼女の母は専業主婦でよく気がつくタイプなので、その必要がないのだ。
彼女は常に「私はできないんじゃなくて、やらないだけだ」と胸を張っていた。事実、彼女は不器用でも要領が悪い訳でもないので、やる気になればかなりできるようになるだろうとは思っていた。

呆気にとられて彼女の手元を見る俺に、彼女は少しむくれたようだった。
「何だその目は。私だってこのくらいやればできる。少しは手伝ってもらったけど、大部分は自分で作ったんだぞ」
上目遣いに俺を睨み、彼女は皿と箸を突き出した。
「あ、ありがと…」
「いらないなら私一人で食べる」
「いただきます!」

彼女のお弁当はすこぶる美味しかった。
食べ始めると、ようやくじんわりと幸せがこみ上げてきた。
美味しい、と素直に感想を述べると、彼女は「当然だ」と頬を染めてそっぽを向いた。
そんな彼女が可愛くてしかたない。

俺は彼女に、女性らしく尽くしてもらうとか、かいがいしく世話を焼いてもらうとかは別に期待していない。彼女がそういうのが苦手な事は知っているし、それをひっくるめて俺は彼女が好きなのだ。必要があるなら、俺の方がその役目をすればいい。幸い、アバウトで不器用な俺の母のお陰で、そういう事はこの年の男子にしてはできるほうだという自負はある。
でも、そういう事は別にしても、やはり世間一般の男子同様、俺にも「彼女の手作り弁当」という物に対する憧れがどこかにあったのも否定できない。事実、これほど感動したことはおそらく今までにないだろう。普段こんな顔を見せない彼女だから尚更だ。

一息つくと、彼女はりんごとナイフを手に取り、一瞬気合を入れるとそれを剥きにかかった。
表情は何気なさを装っているが、かなり必死な様子が伝わってくる。
これじゃあ、さぞかし今日は早起きしたんだろうな、と心の中で苦笑して、俺は彼女からりんごとナイフをさりげなく取り上げた。
「返せ!自分でできる!」
「おっと、手を出すなよ。サクッといくぞ」
ニヤリと笑うと、彼女は慌てて手を引っ込めた。唇を尖らせて憤慨した様子だったが、目がほっとしている。
そう、これでいいんだ、俺たちは。
お互いの足りない所はお互いに補っていけばいい。
俺はおおざっぱにりんごを剥くと、一切れ削いで彼女に差し出した。


「あ~!」
突然、小さな子供と、その母親らしき女性の叫び声が聞こえた。
ふと見上げると、青空をイルカの形をした風船がゆっくりと上昇していく所だった。
「行っちゃった…」
子供は騒ぐというよりむしろ呆然としてそれを見つめている。
俺の隣に座っていた彼女がさっと立ち上がった。

バサッと羽を広げ、大きく羽ばたくと彼女は背筋を伸ばして空へと舞い上がった。一直線に風船めがけて上昇する。
それは一瞬のことだったに違いない。実際、風船はまだそれほど高くは上がっていなかったし、彼女はすぐに追いついて糸をキャッチした。

「!!」
その瞬間、彼女の姿が今朝の夢と重なり、俺の耳は確かに彼女を貫く銃声を聞いた。
さっきまでの幸せな気分が、一瞬にして木っ端微塵に砕け散る。まぶたの裏にはびくりと痙攣し、落下する彼女。草の上にどくどくと流れる鮮血。

「ナオ…!」
俺は声にならない叫び声を上げた。

「どうかしたのか」
着地して、子供に風船を渡した彼女はすぐに戻ってきた。
俺はたぶん、とんでもなく情けない顔をしていたに違いない。彼女は驚いて、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
彼女の羽根が起こした風で、荷物はバラバラになってあっちこっちに散らばっていたが、そんなことも気にならないほど俺は動揺していた。
「具合でも悪いのか?」
硬直したままの俺の肩にそっと手を触れる。俺はその手首を思わずグッと掴んだ。
どこにも行かないでくれ…!
人目もはばからず抱き締めようとすると、彼女は驚いて、とっさにその腕を横に引き、反対の手で叩いた。さすがの身のこなしだ。その痛みで、やっと俺は口が利けるようになった。しかし混乱した頭はすぐには戻らない。
「おまえが、今…俺…夢の……」
支離滅裂だ。でも彼女はそれで察したらしかった。
彼女は困ったような顔をすると、外した俺の手にそっと手を添えて言った。

「おまえも飛んでみるか?」
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by yukino-mori | 2008-07-24 05:40 | ちょこっと話2
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