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マンガとコスメと甘い物が好き
by yukino-mori
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羽についての一考察 その10-6

やっとこさ終盤です。



・・・・・・

結局私は、私を探していたらしい女の子の相手をしてやった。
母親はさっきの場面を目撃したこともあり、しきりに申し訳ながっていたが、照れもあって、私はいつもよりテンションが高くなっていた。
女の子をしっかりしがみつかせて低空で飛んでみた。このくらいの体重なら、難なく飛べる。
着地して、女の子が私の羽を触り始めると、母親は「こら、だめよ」とたしなめたが、私は笑って許していた。私が子供なら、きっと同じことをするだろう。
時折わざと羽を震わせると、女の子はくすぐったがって笑った。
そして、多少遠慮のないその触り方に、私はそれとは全然違う、彼のいつものあやすような、優しくいたわるような手つきを思い出していた。

女の子は手を振って、母親と一緒に館内へと去って行った。腕時計を見ると、2時になるところだった。
「俺たちも行こうか」
彼は少し照れくさそうに笑い、軽くなったバッグを持ってくれた。
「あのママと何を話してたんだ?」
私はさりげなく聞いてみた。さっき私が女の子と遊んでいる時、彼は少し離れた所で、母親とぽつぽつ何かしゃべっていたのだ。
彼の目がくるっといたずらっぽく動いた。「気になる?」
「別に」
「あ、そう…」
即答した私に少し落胆したようだが、彼は気を取り直したらしく続けた。
「若いママだったよな。けっこう可愛いし」
「だから何だ?」
「18の時の子供なんだって。おまえにしてみれば、今から2年後にもう子供産むんだぞ。信じられるか?」
「知るか!」

急にムクムクと怒りが込み上げてくる。
あんな短時間でそんな事まで聞き出したのか!これだから男は信用できない。
それに“可愛い“って!所詮おまえも可愛い女が好きなんだな!
どうせ私は色気がないよ!2年後に子供を産むなんて事とは誰よりも無縁だ!

…せっかく二人でこんな所に来ているのに喧嘩したくはないが、どうにもイラつきを抑えられない。マリか誰かに言われたなら「そうだな」で済ますくらいの事なのに、こいつに言われると無性に腹が立つ。
腹が立っているということ自体に腹が立ち、私は奴を振り切るようにずんずん歩いていった。

順路に従って少し行くと、展示コーナーが途切れた所にお土産コーナーがあった。
可愛い海の生き物のモチーフがついたステーショナリー、水族館のロゴの入ったハンカチやTシャツ、色とりどりの貝殻をつづったのれん。そして定番の、箱入りのクッキーやチョコレート。
駄菓子屋さんの店先のように賑やかな店内を一瞥し、私は弁当作りを手伝ってくれた母へのおみやげとして、煎餅を一箱買った。
しばらくして買い物を済ませた彼が店内から出てきた。それほど待ってはいないけど、私は腹立ちまぎれに即座に文句を言った。
「遅いぞ。男のくせにいつまでも買い物してるなよ」
彼はため息をついた。
「ある意味封建的な奴だな、おまえは。そっちが速すぎるんだよ。これでも急いだんだけど。…はい」
彼は今買ったばかりの包みを差し出した。
「?」
「貝殻セット。子供だましだけど。…お弁当のお礼。あと…さっきは怒らせてごめん。ちょっと調子に乗りすぎた。失言でした」
そして、俺にとって一番可愛いのはおまえだよ、と付け加えた。
私の手を取り、包みを半ば押し付けるように持たせると、今更照れたのか彼は顔をそらしてさっさと歩き出した。

手の中のものをしばらく見つめる。何かが私の中で氷解する。
私は、ハッとしてそれを振り切るように彼に追いついた。
「何でもモノで解決できると思うなよっ」
「はいはい」
「それに、別に私は怒ってなんかいない。何で私が怒らなきゃいけないんだ」
「はいはい」
「はい、は一回!」
「はい」
「それと」
「何?」
「………ありがと」
彼はそれを聞くと口元に小さく笑みを浮かべた。
by yukino-mori | 2008-08-06 15:35 | ちょこっと話2
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