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羽についての一考察 その11-3
毎日暑いです。
もう飽きちゃったよ~早く涼しくならないかな~。 ・・・・・・ 臆病者にも程がある。 何も逃げる必要はなかったんだ。あそこで勢いよくガラッと戸を開けて、何も見なかったかのように彼女に声を掛ける。 もしくは、一喝してもよかった。夕暮れの締め切った室内、二人で何をしているのかと。 タク先はまがりなりにも教師なんだし、その上結婚を控えた身。一方彼女は(多分)俺の「彼女」だ。問いただす権利はある。 聞いてみれば、案外何でもないことかもしれない。でも、あの雰囲気、表情、状況…「何でもなく」ああなったというシチュエーションは、俺のなけなしの想像力を総動員してもとても思いつかなかった。 もう終わりなのかもしれない。 どうしてこんな事になってしまったのか。 彼女の甘く柔らかな唇、もうあれから何万回も反芻したその感触が遠いものになっていくのを感じる。知らないうちに涙が頬を伝っていた。 結婚式当日。 その日は朝から曇り空で、時折小雨がぱらついたりしていた。 新郎新婦には気の毒だが、俺の心の中みたいだな…なんて思ったりする。 俺は学生なので制服だ。 彼女の顔を見るのはつらかったが、迎えに来いと言われたので、しかたなく参上した。 彼女は清楚な紺色のワンピースを着ていた。制服でもいいかと思ったけど、スカートが短いから教会にふさわしくないとの彼女の母の勧めでこれを着てきたと言う。背中部分はいつも通り、羽が出るように改造してあった。ほんとにおばさんは器用だ。 それはおばさんの昔のものだということで、彼女には微妙に似合っていなかった。彼女はその上、場違いな大きなスポーツバッグを持っていた。 「式のときは預けるから大丈夫」 そう言っていつものように自転車の荷台に乗ってきた。 俺にすっかり身を預けた彼女の柔らかさを、久しぶりに感じる。ドキドキしながらも、少し悲しい気持ちになった。 黙っていると、彼女が話しかけてきた。 「おまえ最近何なんだよ」 「何が」 「その…私を避けてるみたいじゃないか」 「別に」 おまえこそ何なんだよ、タク先の所に頻繁に通ったりして。それにあの時、図書室で何をしてたんだ。 …訊けたらいいのになあ。 自分の臆病さ加減に嫌気が差す。男のくせにこれじゃ、彼女に見捨てられて当然だ。 彼女はそれ以上突っ込んではこず、その沈黙がまたあらぬ妄想をかきたてる。 背中で彼女が微かに動き、空を見上げた気配がした。 「晴れるといいけどな」 彼女はぽつりとつぶやいた。 教会の中は静かにざわめいていた。 新郎新婦の親戚らしき一団、新郎と同年代の男たち、俺たちの学校の校長の姿もある。 新婦の友人らしい女性たちは、そう華美ではないが若く華やいだ雰囲気。もっともナオにかなう美人はいないが。 結婚式なんか初めての経験だ。俺なんかがこんな所にいてもいいんだろうか、と不安になる。 そう大きくもない教会の、高い天井とまっすぐなバージンロード、その先の祭壇とステンドグラスなどを見ていると、彼女の様子がだんだんそわそわと落ち着かなくなってきたのに気づいた。 「ちょっと出てくる」 「出てくるって、もうすぐ始まるぞ。具合でも悪いのか?」 「いや、大丈夫だ」 「じゃあ何で。俺も行くよ」 「バカ、トイレだ。ついてくるな」 彼女は有無を言わさぬ口調で言うと、素早くその場を抜け出した。 なかなか彼女は戻ってこない。 俺は心配になってきた。 新郎新婦の幸せそうな姿を見るのに耐えられず、どこかに隠れて泣いているんだろうか。 いや、彼女のことだ、まさか式をぶち壊そうなんてつもりじゃないだろうな。何と言われようが、俺もついて行くべきだった。 俺が腰を浮かしかけた瞬間、式の開始を告げる声が厳かに響いた。
by yukino-mori
| 2008-09-06 14:53
| ちょこっと話3
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