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羽についての一考察 バイト編後日談
いただいたコメントをきっかけに、バイト代の使い道を考えてみました。
この二人は結局こういうことになるみたいです。 ・・・・・・ 後日柿がどっさり送られてきて、彼女の家に分け前を持って行ったら、彼女は感激した様子で「バイト代もらったのに柿までこんなにもらっちゃっていいのか?」と言った。 彼女と違って俺は「親戚のお手伝い」という立場で行ったので、当然バイト代なんかは出ない。その事を何の気なしに冗談交じりで言ってみたら、彼女は意外にも俺を哀れんで、次の日曜日奢る約束をしてくれた。 水族館以来初の外でのデート。場所と服装が変わるだけなのに、何だか新鮮でドキドキする。 あの時初めてキスをした、その事もあって不埒な期待もちょっぴりあるのは否めない。 彼女は最近特に綺麗になった。 …というか、女っぽくなったような気がする。 今までどっちかというとストレートなシルエットの、ボーイッシュな服装を好んでいた彼女。でも今日現れた彼女は、薄手のニットにファーのついた丈短のジャケット、デニムのショートパンツにオーバーニーのソックスという出で立ち。やはりボーイッシュではあるものの、ニットが体にフィットしていて形のよい胸が強調され、ショートパンツとソックスの間から素肌が覗いていて目のやり場に困る。 態度も男言葉も相変わらずだし、どこも変わらないように見えるけど、どこか違う。それが俺の欲目じゃないというのは、振り返る男どもの表情でわかる。 羽のせいでもともと注目されがちな彼女であるが、男どもの目線が以前と違うのだ。 彼女が綺麗になってくのは嬉しいし大歓迎だが、これじゃ俺の身が持たない。 ああ、彼女を誰の(特に男の)目にも触れない所に閉じ込めてしまいたい。 …そんな自分勝手な願望を抱く俺って何て小さい奴。 でも仕方ないじゃないか、こんな恋人を持ってしまったら誰でもそう思うだろう。 嫉妬が過ぎて、苦労してゲットした恋人の座を転げ落ちないようにせいぜい気をつけないと。 ・・・・・・ 「すいません、ライスおかわり」 美しい恋人は、昼食のために立ち寄ったファミレスで、スタミナカツ定食のライスをおかわりしていた。 しかも3杯目だ。 彼女の前には他にグラタンの皿、サラダの大皿、ジャンボパフェのジョッキが綺麗に空いていた。 「さっきも映画観ながら、ホットドッグとコーラのLにバケツみたいなポップコーン平らげてただろ…」 俺はあきれて言った。 「しょうがないだろう、お腹が空くんだから」 換羽期は特に栄養を必要とするせいか、お腹が空いて仕方ないそうだ。 「じゃあこの間は我慢を?」 「そう。一服休みに出されたカステラ、ほんとは一本丸ごと食べたかったけどさすがに遠慮した」 「…」 前から彼女は食べる事が好きで、しかも太らない「痩せの大食い」だった。食べる量が増えてからも、体型は変わらない。羽を生成するというのはよっぽどエネルギーを消費するものらしい。 「おまえももっと注文しろよ。今日は私が持つから安心しろ」 彼女は運ばれてきたライスを早速口に運びながら言った。 「気持ちはありがたいんだけどさ…さっきの映画も奢ってもらっちゃったし、またこれじゃせっかくのバイト代全部なくなっちゃうだろ」 「ん~、別にお金が欲しくて行った訳じゃないし。いいんだ」 「そうか…」 俺は食後のコーヒーをすすりながら、健啖ぶりを発揮する彼女を眺めていた。 「ごはんつぶついてる」 「え、どこ?」 彼女はあわてて顔を触るがなかなかそこに到達しない。俺はくすっと笑って取ってやった。 無心に食べる姿はとても可愛い。少食ぶって出された物を残すより、気持ちよく平らげる方が女の子は絶対いいと思う。今の彼女の場合は量が半端じゃないけど。 それにしてもすごい食欲だ。 「まるで妊娠したみたいだな」 話によると妊婦の食欲はすごいらしい。こんな感じなのかな? 何の気なしにつぶやいた俺の言葉に、彼女の眉がピクリと上がった。 「そうかもな」 彼女はさらりと言った。 「!!!」 「バカ、冗談だ。そんな訳ないだろう」 ~~~頼むから俺を殺さないでくれ……心臓に悪すぎる。 まだ動悸が収まらず胸を押さえる俺を、彼女は面白そうに見つめた。 「おまえから振った話なのに情けない奴だな。…それとも心当たりがあるのか?」 「!」ドキ。 「私は心当たりがないが、私の知らないうちにというなら話は別だ。 例えば、この間私がおんぶされて寝てしまった時とか、な」 彼女の澄んだ瞳が真っ直ぐ俺の目を見据えた。 俺の穢れた思考を全て見通すようで、穴があったら入りたいような衝動に駆られる。 「…あの時私に何かしたのか?」 「べべべつになにもしてません!」 「本当に?」 こくこくと頷く。背中をつうっと嫌な汗が流れた。彼女の目が冷ややかに細められる。 「…したんだな」 断定する彼女。冗談じゃない! 「ほんとにしてませんって!誓ってもいい、多少、いやほんのちょっとはしたけど、決して妊娠するような事まではしてないっ!」 …ハッ! 「やっぱりしたんだな、た・しょう・は」 は、は、は…。 語るに落ちるとはこの事か。 だって、だってさ、仕方ないだろう。欲しくてたまらない女の子が目の前で無防備に眠っていて、それで指一本触れない男がどこの世界にいるんだ。 って、言えばいいのか。なんか余計に墓穴を掘りそうな気が…。 彼女は頬杖をついて俺の顔を覗き込み、にっこりと笑った。 「決定。ここはおまえの奢りな」 「!!えぇ!?」 「すいません、このパスタセット追加で」 ウエイトレスに手を上げて注文する彼女を、俺は呆然と見つめた。 「なんで…そんな…」 「つまんない冗談を言うからだ、ばーかっ」 俺はどれほど情けない顔をしていたんだろう。つんと澄ました彼女は次の瞬間、耐え切れないように吹き出した。
by yukino-mori
| 2008-11-05 05:42
| ちょこっと話3
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